生殖細胞はゲノム情報を次世代に伝達し個体発生の起点となる細胞系譜である。その発生分化プロセスではゲノムの再プログラム化、個体発生能の形成、DNA組み換え等重要な生命現象が起こる。一方、生殖細胞に顕著に観察される構造的特徴に生殖顆粒が挙げられる。同構造は世代、種を越えて観察される事から生殖細胞の発生分化、特性に重要な役割を担うものと考えられる。しかし哺乳類生殖顆粒の解析はこれまでに殆ど進んでいない。本研究計画は哺乳類生殖顆粒の構成蛋白質をコードするマウスtudor遺伝子群を研究材料として生殖顆粒構造が担う分子生物学的機能を明らかにする事を目的とする。平成20年度は(1)TDRD1およびMILIの相互作用、(2)TDRD6ノックアウトマウスの解析、を中心に研究を進めた。(1)生殖顆粒に局在するtudorファミリーTDRD1蛋白質はマウスpiwiファミリーMILIと結合し、レトロトランスポゾンの中程度の抑制、ゲノムDNAメチル化、また生殖細胞特異的なsmall RNAであるpi/rasiRNAのプロファイルに関与する事が明らかとなった。(2)Tdrd6が雄生殖顆粒chromatoid bodyの形成維持に必須な分子で有る事、EIF4EやPABP等の重要な翻訳制御因子の細胞内局在に機能する事、またchromatoid bodyがautophagyシステムと密接な相関を示す事が明らかとなった。これらの結果からchromatoid bodyがRNA及び蛋白質制御に関わる細胞内RNPリモデリングセンターで有る可能性が示唆された。
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