研究概要 |
生殖細胞は遺伝情報を次世代に伝達し個体発生の起点となる細胞系譜である。その発生分化プロセスではゲノム再プログラム化、個体発生能の形成、DNA組換え等重要な生命現象が起こる。一方、生殖細胞に顕著に観察される構造的特徴に生殖顆粒RNP構造が挙げられる。同構造は世代、種を越えて観察される事から生殖細胞の特性に重要な役割を担うものと考えられる。研究代表者らはマウス生殖顆粒の特異的な構成分子をコードするtudor関連Tdrd遺伝子群の機能解析を進めている。Tdrd1、6、7、9ノックアウトマウスを作製した所、これら遺伝子のホモ欠損個体はいずれも雄生殖細胞の分化過程に異常を示す事が明らかとなった。このうちTDRD1、9はマウスpiwiファミリーMILI、MIWI2と相互作用し、胎仔期前精原細胞においてpiRNA生合成経路を介してレトロトランスポゾンLINE-1のRNA、エピゲノムレベルでの抑制成立に機能する事が明らかとなった。精原幹細胞でのLINE-1制御の破綻は減数分裂期で同レトロトランスポゾンの過剰発現を招き、ゲノムDNA障害等による広範な細胞死を誘起する。一方、TDRD6、7は精子細胞の半数体成熟過程で働く。Tdrd6、7ノックアウトマウスでは精子細胞に特徴的な生殖顆粒RNP構造であるchromatoid bodyの形成不全が観察されるが、Tdrd1、9とは異なりレトロトランスポゾンのエピゲノム制御の破綻は検出されない、Chromatoid bodyはRNA代謝に関わるprocessing bodyと構成分子が類似しており、TDRD6,7が精子形成過程においてダイナミックなRNPリモデリングとRNAの翻訳制御に関わる事を示唆する結果を観察している。現在、更に明瞭なデータを得るべく研究を進めている。
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