平成21年度以降の研究計画の「2. ヒストンリジンメチル化酵素ESETの生命機能における機能解析」の研究が特段に進んだ。 解析の結果、30年来の謎であった胚性腫瘍細胞や胚性幹(embryonic stem:ES)細胞などのような発生初期の胚から樹立された細胞株で観察される、DNAのメチル化に非依存的な、特別なプロウイルスの発現抑制にヒストンリジンメチル化酵素ESETが重要な役割を持つことを明らかにした。 ESETはヒストンの特異的なアミノ酸(ヒストンH3の9番目のリジン残基:H3K9)をメチル化する活性を持ち、ESETをコードする遺伝子を条件的に欠失できるES細胞の解析から、ESETを除去すると内在性レトロウイルスの発現レベルが著しく上昇することを見出した。そして、内在性レトロウイルスのLTRプロモーター領域のH3K9はESET依存的にトリメチル化されていることも判明した。また、ESETはプロウイルスのLTR領域にKAP1と呼ばれる分子に依存して導かれることも明らかとなった。最後に、ES細胞におけるプロウイルスの発現抑制には、ESETのヒストンメチル化活性は重要であるものの、DNAのメチル化は必ずしも必要でないことを示した。以上のことから、ESETは、DNAのメチル化状態がダイナミックに変化する胚発生初期の細胞で、DNAのメチル化非依存的に、プロウイルスの発現抑制に寄与していることが示唆された(Matsui T et al.2010)。
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