研究概要 |
本研究の目的は精子幹細胞の品質管理機構を解明することである。前回の特定領域研究の期間中、申請者はマウス精子幹細胞の長期培養に成功し、これをGermline Stem (GS)細胞と名付けた。精子幹細胞の長期培養は世界に先駆け申請者のグループで初めて報告され、申請者はこのGS細胞を用いES細胞に依存しない新規のノックアウト動物作成法を完成した。 この研究の過程で分かったことは、GS細胞は胎生期由来のES細胞とは異なり、非常に安定した細胞であるということである。GS細胞においては染色体数やインプリンティングのパターンは安定しており、2年間の長期培養後も精子形成を起こし、子孫を得ることができる。一方、ES細胞は2,3ヶ月の連続培養により染色体やインプリンティングパターンの異常を起こし、生殖細胞形成能を失う。このGS細胞の極めて高い安定性から、申請者は精子幹細胞には前の世代に被ったgenetic・epigeneticな損傷を子孫には伝わらないようにするための何らかの品質管理機構が存在することを予想するに至り、この機構の破綻がおこると多能性をもつ幹細胞へと変換したり、精子形成や子孫の異常が起こるという仮説をたてている。 本特定領域では、申請者は胎児期の生殖細胞からGS細胞を樹立することにより、ヒストン修飾異常をもつGS細胞を樹立しており実際この細胞から生まれた子孫はインプリント遺伝子のDNAメチル化異常が数代に渡り継続して発生した。本研究では、さらにGS細胞の安定性を崩すために遺伝子導入および培養条件を変更することによりGS細胞のgenetic,epigeneticな安定性がどのように獲得され、維持されているかを解析する。
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