計画研究
piRNAは、精子形成に必須な小分子RNAである。piRNAは、他の小分子RNAであるmiRNAやsiRNAと異なり、dicer非依存的に産生されるが、その分子機構の詳細は明らかになっていない。piRNAの前駆体は、piRNAクラスターとよばれる遺伝子領域から産生される長い一本鎖RNAであり、胎生期には、そのほとんどがレトロトランスポゾン遺伝子に対応している。しかし、piRNAクラスターからの転写産物が必要かどうか、また、レトロトランスポゾン遺伝子の塩基配列が必要かどうか、は全くわかっていなかった。我々は、単にセンス鎖とアンチセンス鎖のRNAが存在すれば、piRNA産生の材料として十分なのではないか、という仮説に基づいて、極めてシンプルな実験システムを構築した。それは、EGFPのアンチセンス鎖を発現するトランスジェニックマウスを作製し、センス鎖を発現するマウスと交配し、ダブルトランスジェニックマウス(dTgマウス)を作製する。そして、そのマウスにおいて、EGFPに対するpiRNAが産生されるかどうか、また、そのpiRNAによって、遺伝子サイレンシングが生じるかどうかをしらべる、というものである。実験結果は、我々の仮説を完全に支持するものであった。dTgマウスにおいては、EGFPに対するpiRNAが産生され、piRNA依存的にEGFP遺伝子のプロモーター領域がDNAのメチル化をうけ、遺伝子発現がサイレンシングを受けることを示すことができたのである。この結果は、piRNA産生機構の研究において極めて大きなインパクトを有するものである。
2: おおむね順調に進展している
上記の研究は、成果が得られる可能性は必ずしも高くはないが、よい結果が得られれば、当該分野において大きなインパクトをもたらすものとして立案、実行した。予想以上に順調に進捗し、非常にクリアーでインパクトのある結果を得ることができた。一方で、胎生期の生殖細胞の採取に手間取っており、その研究の進捗が遅れ気味である。あわせて、おおむね順調と判断した。
dTgマウスを用いた研究は、今後、トランスジーンのみでなく内在性の遺伝子に対するpiRNAの誘導や遺伝子発現のサイレンシング誘導、という、意義の高い研究へとつなげていく。
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