研究領域 | 生殖系列の世代サイクルとエピゲノムネットワーク |
研究課題/領域番号 |
20062008
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡部 勝 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (30089875)
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研究分担者 |
蓮輪 英毅 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (50343249)
磯谷 綾子 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (20444523)
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キーワード | 生殖細胞 / 遺伝子組換え動物 / 不妊 / 分子シャペロン / 受精 |
研究概要 |
本研究課題では、生殖系列細胞の世代サイクルを分子生物学的に明らかにするために、受精過程や、生殖細胞の分化・成熟、相互認識に焦点を当て研究を進めている。 精子は透明帯に結合して先体反応が誘発された後、透明帯を通過して受精するので、透明帯との結合因子を明らかにすることにより精子が透明帯を通過する仕組みが明らかになると考えられている。そこで、我々は、精子先体内にあり透明帯のZP3を結合すると考えられてきたZP3R/sp56という分子に注目し、ノックアウトマウスを作製し、解析した。その結果、ノックアウトマウスには、妊孕性があり、ZP3R/sp56は受精に必須の分子のリストから除外できることを明らかにした。 我々はこれまでに精巣特異的分子シャペロンであるClgn、Calr3のノックアウトマウスを作製し受精に必須の分子であることを証明してきた。平成23年度の研究において新たに精巣特異的分子シャペロン関連分子としてPDILTを同定し、そのノックアウトマウスを作製し、解析した。その結果、この分子シャペロン関連タンパク質は受精の成立に必須であり、欠損マウスは雄性不妊の表現形を示した。その作用機作を検討するとこのマウスからの精子は輸卵管への移行能や透明帯への結合能を欠損していることが分かった。さらに詳しく調べてみると、精子から受精に必須の因子とされるADAM3が欠損していることが分かった。ADAM3を成熟させるために少なくとも3種の精巣特異的分子シャペロンあるいはその関連分子が必要であることが示された。 これらの研究を通じて透明帯に結合できないように見える精子でも卵丘細胞が存在すれば受精することを明らかにしたほか、透明帯を一度通過して先体反応を終えた精子でも再び透明帯を通過できる能力を有していることを確かめた。これらの結果から、ADAM3欠損などにより引き起こされる不妊の原因は、これまで重要視されてきた精子と透明帯の結合能ではなく、輸卵管内への精子の移動能の欠損が真に重要なポイントであることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、精巣特異的発現遺伝子群のノックアウトマウスの解析結果から、精子の透明帯への結合能と輸卵管への移行能とが密接に結びついていることを明らかにした。さらには、精子の透明帯への結合能が受精過程で重要ではないことを示唆し、精子と卵子の相互認識に新たな知見を示すことができた。また、新規のノックアウトマウスの作製・解析や、マウスとラットの異種キメラにおける生殖細胞の発生・分化の解析も進めており、当初の計画通り順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
「機能する配偶子」が作られる過程で起っている現象を分子生物学的に明らかにするため、受精とその前後のエピゲノム調節にフォーカスを絞りながら、効率的に研究を進める。 (1)配偶子の相互認識と融合現象について、複数の遺伝子改変動物を用いた研究から受精に必須の因子が数多く同定されており、今後はそれらの相互関係を明らかにすると同時に、新たな遺伝子改変動物を作製し受精現象を分生子物学的に記述することをめざす。さらに、雌性生殖路内での挙動を追跡可能にした蛍光色素標識精子を産生するマウスに加え、精子形成過程をモニターできるマウスなどを新たに作製し、受精の分子生物学的な理解を深める。 (2)「機能する配偶子」が形成される過程でおきるエピゲノム調節について、生殖細胞の運命を時間・空間的にトレースできるモニターES細胞とマウス胚を用い、蛍光イメージング法により生きたまま生殖細胞の挙動を観察する系を確立する。この系を応用することで、雄の細胞と雌の細胞からなる異性キメラや、マウスとラットからなる異種キメラの環境において、生殖細胞の発生や分化に必要な条件を明らかにする。
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