研究概要 |
本計画研究は、生殖細胞の全能性獲得の機構(あるいはその準備)こそが次世代にゲノムを伝える生殖細胞の本質であるとの認識をもとに、それがいつどのように生じるか、そしてその際にゲノム上にどのようなエピジェネティクス変化が起こっているかを明らかにする。マイクロアレイ解析上、3種類のクローン胚盤胞に共通した差次的遺伝子は、164遺伝子のみであった。そのうち、131個の発現亢進した遺伝子には特に特徴は見られなかったが、33個の発現抑制遺伝子はそのうち20個がX染色体上に位置するという特徴が見られた。また、いずれの胚においても、X染色体遺伝子全般の発現が低下する経過が見られ、X : Autosomalの発現比率が低かった。RNA-FISHにより雄SCNT胚のXa上Xistも発現していることがわかった。そこで,XistノックアウトアレルがXa上に存在するドナー細胞を用いてクローンを行ったところ、いずれのSCNT胚もX染色体遺伝子の発現が正常に近づき、X : Autosomalの比率も上昇した。興味深いことに、常染色体上遺伝子の低発現遺伝子の多くも改善した。一方、Xistノックアウトを用いても改善しないX染色体上遺伝子群が残っていた。この領域は、Wenら(2009)のminimal LOCKsの領域に含まれていた。また、マウスクローンの効率を改善するtrichostatin A処理をしたNTSC胚盤胞では、これらのX染色体の遺伝子発現抑制は改善しなかった。以上から、SCNT胚に生じるエピジェネティクス異常として少なくとも2種類が存在し、ランダムに生じる再プログラム化の不足と体細胞と生殖細胞ゲノムのエピジェネティクス特性の差を反映した異常が存在すると考えられる。
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