本計画研究は、生殖細胞の全能性獲得の機構こそが次世代にゲノムを伝える生殖細胞の本質であるとの認識をもとに、それがいつどのように生じるか、そしてその際にゲノム上にどのようなエピジェネティクス変化が起こっているかを明らかにする。昨年までに、Xist mRNAに対するRNA干渉法を用いて、雄の体細胞クローン胚の生存率が改善することを示し、着床前のXistの異所性発現が、着床後のクローン胚の発生に決定的な影響を与えていることを明らかにした。そこで、各発生段階の雌雄生殖細胞をドナーとして用いて核移植を行い、その再構築胚におけるXistの発現を観察し、刷込み型XCI成立機序について検討を行った。その結果、fully grown GV期卵子(直径約70μm)以外、すべての雌雄生殖細胞由来のクローン胚からXistが発現することが明らかになった。すなわち、Xistは4細胞期ころから胚性遺伝子の一つとして発現することが本来の設定(default)であり、卵子発育の最終段階でのみXistの発現を抑制するインプリントが入り、これが受精卵へ伝わると考えられる。この結果は、マウスに典型的に見られる刷込み型XCIが父方でなく、母方のインプリントで制御されるという説を支持する。また、これにより、以前報告した体細胞クローン胚における異所性Xist発現も説明できる。また、さらに胎盤由来細胞の核移植クローン胚は、異所性のXistを発現したことから、母方のインプリントは、胎盤側の細胞においても消去されることが示された。生殖細胞ゲノムが完全な全能性を獲得するためには、生殖細胞の発生初期からインプリントや体細胞記憶の消去が生じ、最終的に受精の段階で大規模な変換を受ける。これらのエピゲノムレベルの変化はは生殖細胞の発生段階に高い特異的があり、必ずしも成熟卵子がすべてを制御できるものではない。
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