内部細胞塊、エピブラストなどの胚性未分化細胞、始原生殖細胞(PGC)の発生過程では、遺伝子発現やエピジェネティックステータスの大規模な変動が生じる。本研究では、この発生プログラムの転換点の詳細な解析を通じて、その制御機構の解明を試みている。遺伝子発現プロファイルの解析を行ったところ、生殖隆起に到達した後の始原生殖細胞は、それ以前と大きく異なる遺伝子発現プロファイルを示し、また雌雄の細胞間でも数千単位の遺伝子において差次的発現が認められた。またその分化過程において特に著しい発現変動を示す、「発生の変曲点」とも呼ぶべきステージを特定した。その制御には様々なエピジェネティック制御が関与すると考えられるが、その一つであるDNAメチル化の解析を行った。胚性細胞、PGCは得られる細胞数が少ないため、既存の技術の微量化を試み、既存の手法の約1/500の材料の解析が可能となるように技術の改善を行い、実際に各種の胚由来幹細胞、PGC等の比較を行った。その結果、各細胞タイプが特徴的なメチル化パターンを持つことが示され、それを元に差次的にメチル化を受けているDNA領域の特定に成功した。PGCゲノムのメチル化プロファイルの取得にも成功し、PGCゲノムが他と大きく異なるエピジェネティック状態にあることを見出した。また、この解析の過程で分節的重複を示す比較的広いゲノム領域が、連続して生殖細胞細胞特異的に低メチル化状態にあり、この領域には生殖細胞に特異的な発現を示す遺伝子が集中していることが明らかとなった。このことは、生殖細胞ゲノムは体細胞と大きくことなるDNAメチル化状態を持ち、それにより広範囲のゲノム領域単位の発現制御を行っていることが示唆された。また、ES細胞の分化誘導により得られたPGC様の細胞を解析したところ、胚から単離したPGCとは大きく異なるDNAメチル化プロファイルを示すことが明らかとなった。
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