研究概要 |
内部細胞塊、エピブラストなどの胚性未分化細胞、始原生殖細胞(PGC)の発生過程では、遺伝子発現やエピジェネティックステータスの大規模な変動が生じる。本研究では、この発生プログラムの転換点の詳細な解析を通じて、その制御機構の解明を試みる。主成分分析によりPGCにおける遺伝子発現プロファイルの比較を行ったところ、7.5日胚,8.5日胚、9.5日胚からのPGCは、ステージが近いにもかかわらず、多くの遺伝子に発現変動が認められた。これらのステージは、ゲノムのDNAメチル化、ピストン修飾が大規模に変動する時期に相当しており、遺伝子発現全体にその変動が反映していると考えられる。その後、10.5日から12.5日までのステージでは雌雄のPGCとも比較的相互に類似したプロファイルを示した。しかし、その後、雌雄の配偶子形成に伴い、数千単位の遺伝子において著しい発現変動が認められた。その制御には様々なエピジェネティック制御が関与すると考えられ、その一つであるDNAメチル化のゲノムワイドな解析を行った。PGCのような希少な細胞の解析のため、既存の技術の微量化を試み、1ナノグラム程度のゲノムDNAの解析を可能とする技術の確立を行った。この方法を用いて、現在、発生過程のPGCゲノムのDNAメチル化変動の詳細な解析を行っている。また、その他の細胞との比較から、雄性生殖細胞のゲノムにおいて、1メガベース以上にわたる比較的広いゲノム領域が、連続して低メチル化状態となっていることを見出した。この領域には生殖細胞に特異的な発現を示す遺伝子が集中していた。その中には癌細胞および生殖細胞で特異的に発現することが知られているCancer Testis Antigen遺伝子が含まれており、生殖細胞と癌細胞での遺伝子発現に関与する共通なエピゲノム状態が存在することが示唆された。
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