研究概要 |
本研究は卵子による核の初期化機構の解明を目指すと同時に初期化の促進方法を開発し、体細胞核の完全初期化およびクローン動物特有の異常が生じない健全な個体を高率に作出することを目指している。 2008年度には(1)未成熟卵子の細胞質内に存在する初期化能力は成熟卵子より強く、特にヒストンの脱メチル化能が高いことを明らかにした。そこで未成熟卵子の細胞質で体細胞に前処理を行うことで、クローン動物の成功率を若干だが改善することに成功した(Bui etal.,2008)。(2)単為発生胚由来のES細胞を用いてインプリント遺伝子のエピゲノムの安定性を調べたところ、核移植操作により少なくとも2つのPEG遺伝子のエピゲノムが変化してしまうことを明らかにした(Hikichi et a1 2008)。(3)初期化因子を増やすことを目的に、2つ以上の卵子を融合させた巨大卵子を作成し、クローンマウスの作成率の改善を試みた。しかし巨大卵子を用いてもクローン個体の出産率は改善できなかったことから、初期化因子は量より濃度の方が重要だと思われた(Wakayama et al.,2008)。(4)一方核移植技術の改善によって従来不可能だった死滅体細胞からの核移植が可能になり、最長16年間凍結保存されていたマウスの死体からクローン個体作出に成功した(Wakayama et al.,PNAS 2008)。この成果は国内のみならず多くの国で紹介された。(5)同様に我々は凍結乾燥状態で保存した細胞の核移植にも成功し、ntES細胞およびキメラを経ることでドナーの遺伝子を復活させることに成功した(Ono et al.,2008)。
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