研究概要 |
本研究は卵子による核の初期化機構の解明を目指すと同時に初期化の促進方法を開発し、体細胞核の完全初期化およびクローン動物特有の異常が生じない、正常な個体を高率に作出することを目指している。2012年度には1.卵子が持つと考えられている初期化能力を最大限に引き出すことを目的に、核移植の各工程を見直し、使用する薬品を再検討した。その結果、現在おそらくすべての研究者が使用しているサイトカラシン(F-アクチンに結合しアクチンの重合を阻害する。卵子を柔らかくし核の除去や染色体の損失を防ぐ効果)が、その後の卵子のアクチン分布を撹乱していることが判明した。そこでサイトカラシンの代わりにラトランクリンA(G-アクチンに結合しアクチンの重合を阻害する)を用いたところ、アクチンの異常な分布が減少し、成功率が2倍近くまで改善された。さらに、核移植の工程には深夜まで数回にわたる培地交換が必要で研究者を疲労させていたが、ラトランクリンAは毒性が低いため培地交換を減らすことが出来、実験にかかる負担が大きく軽減した(Terashita et al.,2012)。 2.クローン動物特有のエピジェネティック異常について調べるため、核移植を何度も繰り返した再クローンマウスの作製を試みた。もし異常が核移植ごとに蓄積するものであれば、再クローンマウスの出産率は低下し奇形率は増加するはずだが、核移植を25回繰り返しても出産率は低下せず、生まれた再クローンマウスの寿命や生殖能力に異常は見られなかった。網羅的に遺伝子発現を調べても、エピジェネティック異常は初代のクローンマウスと同程度であったことから、クローン特有の異常は蓄積しないことが明らかとなった。したがって連続核移植を用いれば1匹のドナー個体から無限のクローン個体を作り出せることになり、優良家畜の無限増殖など農業を大きく改善する可能性が示された(Wakayama et al.,2013)。本成果は世界各国の新聞や雑誌、テレビで紹介された。
|