研究領域 | 半導体における動的相関電子系の光科学 |
研究課題/領域番号 |
20104002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
五神 真 東京大学, 大学院・理学系研究科, 教授 (70161809)
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研究分担者 |
中 暢子 京都大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (10292830)
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キーワード | 光物性 / 物性実験 / 量子エレクトロニクス / 低温物性 / 励起子 |
研究概要 |
無冷媒希釈冷凍機を用いた歪みトラップ内励起子捕獲の実験系を完成させ、亜酸化銅における超低温のパラ励起子の精密な発光観測を行った。弱励起極限においては、パラ励起子の非常に長い寿命を反映して十分な励起子格子相互作用時間を確保でき、分光器では分解能が不足する非常に線幅の狭い発光が観測された。そこで、エタロンを併用する空間分解分光法を構築することにより、励起子温度として150mKまで冷却され熱平衡状態にあることを確認した。これは定常励起下で確認された過去最低温度の励起子集団である。捕獲された励起子数を増すと、ヘリウム3冷凍機を用いた結果と同様に、BEC転移の条件を満たした時に急激に熱的成分が出現することを確認した。すなわちBECに伴う緩和爆発現象と見られる結果が再現し、これについて温度依存性やトラップ周波数依存性の系統測定を進めた。 一方、励起子ライマン分光法を用いた励起子の吸収イメージングを実現し凝縮体の直接観測を実現するため、中赤外差分イメージングシステムを導入し、量子カスケードレーザーのビーム形状を広いダイナミックレンジで取得する予備実験を行った。これにより、スペクトル分解した励起子の空間イメージについて、そのダイナミクスを敏感に捕捉できることが明らかになった。また、フォトンカウンティングストリークカメラによる高速領域の高次光子相関測定について典型的な実験例を提示すべく、垂直共振器型面発光レーザーの発振閾値近傍における高速な緩和振動を二次の光子相関を通じて観測した。 間接遷移型ワイドギャップ半導体であるダイヤモンドにおいては、励起子準位への共鳴励起によって従来よりさらに低温の励起子系を作ることに成功し、励起子気体と電子正孔液体との共存相である電子正孔液滴の安定性を検証する手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
希釈冷凍機によりパラ励起子の世界最低温度までの冷却が可能となり、BEC転移に伴うと考えられる緩和爆発現象の格子温度やトラップ周波数依存性の系統的測定が進んでいる。100mK以下における電子正孔液体の観測については、現在入手可能な検出器では観測波長領域における信号対雑音比が不足することが明らかになった。そこで、佳境に入った上記亜酸化銅励起子の実験に注力することとした。ダイヤモンドの電子正孔系の研究も順調に進んでいる。また、高速領域光子相関測定についても順調に興味深い実験結果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
パラ励起子の安定なBECの観測を実現することが、最終年度を迎える本研究の最大の目標である。これには原理的な問題として、BECからの発光が極めて微弱であることが想定され、観測が難しいことが挙げられる。そこで昨年度からの実験を継続することはもちろん、平行して昨年度追加配分により導入した中赤外光のイメージングシステムによる励起子の吸収像取得を早期に完成させ、凝縮体の直接観測を目指す。その他の課題についても、本年度までに興味深い実験結果が蓄積されつつあり、取りこぼしなきよう論文報告や外部発表を進める。
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