研究概要 |
ゲート付き非ドープ量子井戸構造試料を用いて分数ホール領域の電子占有数v=1/3, 2/5近傍に見られる二つに分裂した円偏光発光ピークの温度依存性を調べた。観測された分数量子ホール領域での発光に円偏光依存性は、電子系のスピン偏極度のみを考えたので従来の枠組みでは理解できず、非圧縮性液体中の励起子、即ち分数荷電励起子と電子系を、Saha方程式に基づく熱平衡関係、電子と正孔の数の保存、荷電励起子の形成レート、局在性、解離レート、二次元電子系の偏極度を考えて、動的平衡を取り扱うことにより理解されることを見いだした。この解析の結果、観測された円偏光発光ピーク強度の温度依存性を良く説明することができた。 高品質のGaAs量子井戸を用いて、表面・裏面のゲートとソース電位により二次元電子系の電子密度と電界を独立に制御し、同じ電子密度における発光線幅の違いに着目し、電子密度の増加に伴って試料のラフネスに起因した発光線幅が有意に小さくなることを見出した。また、同試料において時間分解カー効果測定法によるスピン緩和過程の電子密度依存性の研究を進め、金属絶縁体転移近傍の電子密度において、電子密度によらずスピン緩和時間が量子井戸に垂直な電界により制御した電子-正孔の距離に依存しない事を見出した。希釈冷凍機温度磁場中近接場光学顕微鏡を用いて、空間分解能約100nmで励起子共鳴ピークのやや低エネルギー側を光励起することにより、磁場中半導体二次元電子量子ホール試料端に形成される圧縮性液体と非圧縮性液体の縞状分布を観測することに成功した。 電子密度と縦方向の電場を外部制御可能なように構造を最適化した二重量子井戸構造試料の時間分解発光測定を実施した。表面、裏面電極への電圧印加により電子密度と電子-正孔間距離を制御し、その結果、発光寿命が長くなることを見いだした。
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