本研究では、基底状態においても電子相関が強く、一体近似が成立しない新規絶縁体材料において、光励起によって生成される電子正孔多体系のダイナミクスを研究する。特に、励起状態に固有の相関効果「動的相関」による秩序形成、光誘起絶縁体-金属転移等、電子状態の光誘起相転移のダイナミクスの解明に焦点を絞り、テラヘルツ域を含む赤外全域をカバーする独自の時間領域分光を行うことによって調べる。 我々はこれまで時間領域分光法の広帯域化を進めてきた。パルス幅5fsの極短パルスレーザーと大きな非線形光学定数をもつ有機結晶DASTを用いることで、サブTHzから世界最高となる200THzという光通信帯域に及ぶ広帯域のコヒーレント光を発生させることに成功している。その際、レーザーパルスのチャープ量を変化させると、負チャープをかけた時に最も強度が大きいことが分かった。この結果から発生機構を議論するために、位相整合条件を検討した。これまでに報告されているDAST結晶の屈折率分散を用いて、幾つかの偏光配置について、100THz以上の高周波成分の位相整合条件を計算すると、位相整合はx^<123>の成分が最も良いことが分かった。これは数THz程度の低周波領域ではx^<111>成分を用いていることと対照的である。高周波領域では発生した電磁波の偏光が入射レーザーの偏光と直交していることもこの結果を裏付けている。また、高周波発生においては、レーザーのスペクトル上で非常に離れた波長成分を使うので、群速度分散の効果が非常に大きいことが分かった。このように発生機構の詳細も含め、遠赤外から近赤外に至る超広帯域時間領域分光法の確立に成功した。そして、この分光法を特異なスピン構造を有する酸化物に適用した。 一方、これまで高強度テラヘルツパルスの発生とそれによる光学応答の制御を進めてきたが、世界最高レベルの1MV/cmを実現した。こうした高強度パルスによる物性制御の試みも引き続き行った。
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