研究概要 |
平導体中の電子励起多体状態と光子場との結合系を対象とし, 動的電子相関効果を取り入れた量子光学応答理論を構築し, 新しい半導体レーザー理論体系を整備すると同時に, 非平衡定常状態の量子応答理論の定式化と深化に寄与することを目的としている。本年度は,従来の半導体レーザー理論の有効範囲・適用限界の解明, 利得スペクトル形状の解明, 励起子凝縮・ポラリトン凝縮・レーザー発振の類似点と相違点の解明に集中して取り組んだ。 従来用いられてきたハートリーフォック近似での半導体ブロッホ方程式理論・半導体ルミネッセンス方程式理論の適用限界を調査した結果, 利得スペクトルの幅や形状を決定する「現象論的緩和定数」の取り入れ方に問題があることが明らかになった。この解決のためには, 自己エネルギーの虚部を微視的に計算しうる高次の近似手法(T行列近似など)を用いるか, 有限系の数値計算手法を用いる必要がある。これは, 上海応用物理学研究所との共同研究としても推進している。 また, 半導体レーザーの反転分布状態である「電子正孔系」は, 共振器中の光子場と結合して「励起子ポラリトン系」を形成する。このポラリトン系の量子コヒーレンス形成とレーザー発振による光のコヒーレンス形成との関連を解明する。これは, 非平衡定常状態で連続発振する量子半導体レーザーの理論の構築の上で欠かすことはできない。そこで, 近年の先行研究を精査し, 光子場の記述と物質系の取り扱い(特に動的電子相関効果)および散逸効果の取り入れ方に問題があることを見いだした。超放射の量子論を基にして, 空間分散効果と動的電子相関効果(クーロン散乱)とを取り入れたモデルでの数値計算研究を開始した。これは, 2009年2月1日から雇用した博士研究員とともに進めている。
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