研究概要 |
半導体中の電子励起多体状態と光子場との結合系を対象とし,動的電子相関効果を取り入れた量子光学応答理論を構築し,新しい半導体レーザー理論体系を整備すると同時に,非平衡定常状態の量子応答理論の定式化と深化に寄与することが研究目的である。本年度は,昨年度の成果を踏まえて,(1)従来の半導体レーザー理論の有効範囲・適用限界の解明と,(2)励起子凝縮・ポラリトン凝縮・レーザー発振間の関連の解明に取り組んだ。 (1) 中国科学院上海応用物理研究所のHuai教授と共同研究を進め,従来の半導体ブロッホ方程式理論と半導体ルミネッセンス方程式理論の適用限界を調査し,クーロン相関の取り入れ方を改良する方法を模索している。利得スペクトルの幅や形状を決定するには,現象論的緩和定数ではなく,自己エネルギーの虚部を,電子間散乱による寄与と電子-フォノン散乱による寄与とに分離して導入する必要がある。来年度に数値計算の方法を決定し,計算を進める。さらに,京都大学田中研究室のテラヘルツ分光実験でも,スペクトル幅の密度依存性と励起子モット転移との間に関連がある結果が出ており,線幅や散乱を理論的にきちんと取り扱う必要性が高まっている。田中研究室との共同討論を開始した。 (2) 電子正孔系が共振器中の光子場と結合した励起子ポラリトン系で,励起子凝縮の現象論的理論を援用した理論を博士研究員と構築し,励起子ボーズアインシュタイン凝縮とレーザー発振とのつながりを考察した。光のエネルギーと電子正孔系の励起子準位エネルギーとの離調および結晶の原子間隔の有限性に由来する紫外カットオフの2つのパラメータに強く依存し,相転移的な変化とクロスオーバー的な変化の両方が生じ得る。
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