研究概要 |
任意の螺旋度を持つカーボンナノチューブに対する励起子微細構造分裂を有効質量理論に基づき議論した.1電子状態の成すエネルギーバンドと電子・正孔間クーロン相互作用に対する蜂の巣格子の持つ空間的異方性(三回対称性)の効果により,励起子エネルギーと同様に,微細構造分裂もまたチューブの螺旋度に依存したファミリーパターンを示すことが明らかになった.これは前年度の強束縛模型によるジグザグナノチューブの谷内励起子に対する計算結果からの予想と一致した.分裂エネルギーは構造に依存しない周長の2乗に反比例する項と,ファミリーパターンを示す螺旋度に依存した周長の3乗に反比例する小さな補正項というふたつの寄与の和で理解できる.谷内励起子の場合,光学活性な明励起子が不活性な暗励起子の高エネルギー側に存在することで発光スペクトルが抑制されると考えられてきたが,分裂エネルギーが数meVと非常に小さな値で,構造による値のばらつきが同じ程度であることを考慮すると,その順序が反転する構造が存在する可能性が示唆される.谷間励起子は,直接遷移では光学不活性だが,明励起子のフォノンサイドバンドとして観測される.このエネルギーが螺旋度に依存するかどうかは,実験的には解釈が分かれている.谷内励起子の実験結果を説明できるパラメータを用いると,谷間励起子は明励起子の数十meV程度高エネルギー側に位置し,谷内励起子と同様に数meV程度のファミリーパターンによる螺旋度に依存した分裂を示すことが明らかになった.この分裂はサイドバンドに寄与する光学フォノンに比べて小さいため,解釈の不一致が生じたと結論できる.励起子微細構造の詳細が明らかになったことで,励起子の寄与が支配的であるナノチューブの光学応答の理論的予測が進展すると期待される.
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