研究概要 |
研究実施計画に従い3つの研究課題に取り組んだ.それぞれの成果を以下に列挙する. (1)半導体カーボンナノチューブにおける励起子光学応答に対する不純物効果:カーボンナノチューブにおける不純物等の局所的なポテンシャルによる摂動が引き起こす電子状態変化に起因した励起子微細構造と光吸収スペクトルの変化を計算した.励起子準位の混成効果により明励起子よりも低エネルギー側に存在する暗励起子が光学活性化することを期待したが,その効果は微小であり,明励起子による光吸収は不純物の存在に対して安定である事が明らかになった. (2)多層カーボンナノチューブにおける層間遮蔽効果:多層カーボンナノチューブでは,層間の電荷移動が無くとも,異なる層に電気分極を誘起することにより,光と相互作用する層における電荷間の相互作用は遮蔽される.実際,この層間遮蔽効果によりエネルギーギャップと励起子束縛エネルギーは共に強く抑制される事を明らかにした.それに対し,励起子エネルギー準位そのものは,両者の効果が相殺し,微小な赤方遷移を示すにとどまった. (3)ボーズ凝縮した微小共振器ポラリトンからの発光スペクトル:微小共振器中の半導体量子井戸の光励起状態における素励起である励起子ポラリトンを高密度に生成し,ボーズ凝縮体が形成された場合の発光スペクトルを計算した.角度分解分光によれば,弱く相互作用するボーズ粒子系で実現する超流動状態からの発光には特徴的な分散構造が現れる事を見出した.超流動状態の実験的検証に役立つと期待される.
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