研究概要 |
カーボンナノチューブ・グラフェンに代表される炭素原子の蜂の巣格子平面ネットワークにより構成されるカーボンナノ構造における電子は,通常の半導体とは異なり,質量ゼロのディラック方程式に従う特異な状態を形成している.電気伝導に関しては,非常に高い伝導率を示すなどの様々な特徴的振る舞いが知られており,光学応答においても他の物質には見られない特異性を示すと期待される. 実際,カーボンナノチューブの光学応答は,構造の擬一次元を反映して,光励起により生成された電子と正孔の束縛状態である励起子に支配されるが,その束縛エネルギーは桁違いに大きく励起子は室温においても安定に存在する.束縛の強さは電気分極を増大させ,光との結合がより強固になる事から,カーボンナノチューブは光による状態制御や新奇な光機能性につながる物性を持つ可能性を秘めている. 本研究の目的は,カーボンナノ構造における光励起状態における電子正孔間の相互作用に起因する動的電子相関効果を解明し,それが光学応答にどのように反映されるかを理論的に見出すことにある.具体的には,カーボンナノ構造の持つ特異な電子状態において実現する励起状態の電子正孔間相互作用を詳細に調べ上げる.様々な実験データと比較検討を重ね,励起子状態を記述する有効模型を導出するとともに,光学応答に発現する動的電子相関を明らかにする. さらに,低次元電子系一般に共通する光学応答の理解を推し進めるため,カーボンナノ構造にとどまらず,半導体量子細線・量子井戸における相互作用の遮蔽効果や光強励起状態をも研究対象と捉え,最終的には,低次元電子系に普遍的な光学応答・光機能の解明に繋がる動的電子相関に関する学理の確立を目指す.
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