研究概要 |
本年度は,高分子電解質ブラシ内の水の構造に着目して研究を行った.これまでの研究にて,高分子電解質,特に強イオン性ブラシ層の内部は,イオン鎖が極めて高密度にて密生しており,イオン濃度が2M以上という極めて特殊な状況であることが分かっている.その結果として,ブラシ層内のイオン鎖の対イオン凝縮度は90%以上に及ぶことが,臨界塩濃度の評価より明らかとなっている.このような特殊な状況においては,水の構造も極めて特異的,すなわち高い構造性を有していることが予想される.そこで,従来より用いてきたポリ水素化イソプレンとポリスチレンスルホン酸(PSS)のジブロックコポリマーを用いて,水面PSSブラシ構造に及ぼす添加塩イオン種の効果をX線反射率測定にて詳細に検討した.従来のNaClに加え,今回,LiClおよびKClについて検討した.いずれの場合にも,ブラシが収縮し始める「臨界塩濃度」の存在が確認されたが,その絶対値は,カチオン種により異なっていた.0.1MのLiClの添加で,PSSブラシは完全に絨毯層のみの構造へ転移しており,Liイオンに対する臨界塩濃度は0.1M以下であることがわかった.NaCl対してもほぼ同様の傾向が見られたが,ブラシの収縮度は若干,LiClにくらべ低い傾向が見られた.一方,KClを添加塩として用いた場合は,0.2Mの添加でブラシの収縮がみられたものの,その収縮度は半分程度であり十分にブラシ層が残っていた.これにより,PSSブラシに対する臨界塩濃度は,Li+<Na+<K+の順であることか判明した.これはタンパク質の塩析能に対するホフマイスター順列と同じ傾向である.この順列は,各イオンの水の構造性を促進する/破壊する強さの傾向と言われる.今回の結果も,ブラシ層内の高い構造性の水に,構造形成イオンであるLi+は入りやすいが,破壊イオンであるK+は入りにくい,と説明できる.
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