研究概要 |
カルボキシベタインを親水鎖とする両親媒性ジブロックコポリマーをRAFT重合により合成し,それらが水面で形成する単分子膜中のカルボキシベタインブラシのナノ構造とその転移を,表面圧-面積曲線(π-A曲線),およびX線反射率(XR)測定により検討した.ブラシが生え始めるブラシ密度(臨界ブラシ密度)は,0.1本/m2程度と,他のイオン性ブラシに比し,小さな値となった.これはカルボキシベタインが両イオン性であり,電荷の効果を打ち消し合い,中性鎖に近い挙動,すなわち立体反発によりブラシが形成することを示しているものと考えられる.また,NaClなどの塩を添加すると,ブラシが伸張する現象が観察された,他のアニオン性およびカチオン性ブラシでは,塩添加によりクーロン反発が遮蔽されるため,ブラシは収縮していたのと,全く逆の傾向である.NaClを添加することにより,ベタイン内のカルボキシル基は,Na+を対イオンとする,四級化アミンは,Cl-を対イオンとする,それぞれアニオン基,カチオン基へと変化すると考えられる.しかし,四級化アミンは嵩高いイオンであるため,対イオンとなるCl-があまり近づけないため,ベタイン全体としては,NaCl添加により,カチオン性が強くなり,カチオン鎖ブラシとして振る舞うため,クーロン反発によりブラシが伸張したものと考えられる.NaClに加え,様々なアニオンを持つNa塩を添加塩として用いたところ,ブラシの伸張にはイオン種依存があり,いわゆるHoffmeister順列に従うことが判明した.これは,イオンペアとして結合の強さが関連すると共に,ベタインの特殊な水和状況が関連していることを示唆する結果である.また,PNIPAMを有するジブロックコポリマー単分子膜が温度に応答して,そのナノ構造を変化させることを確認した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カルボキシベタインブラシについては,そのブラシ密度依存性および添加塩効果のみならず,添加塩の種類による差異を見いだし,議論することができた.特に,イオン種の効果が,著名なホフマイスター順列に従うことが大変興味深い結果である.また,温度応答性単分子膜の構築に成功しその温度応答性の確認に成功した.
|
今後の研究の推進方策 |
領域内で多くの研究者が生体適合材料として使用しているフォスフォベタインブラシの検討へと進む.ベースとなる含有ジブロックコポリマーの合成にはすでに成功しており,安定な単分子膜およびブラシ形成条件を見いだし,そのナノ構造の転移を,ブラシ密度および塩濃度,円の種類に対して行い,今年度のカルボキシベタインに関する結果と比較検討すると共に,他班の応用例とも比較して,フォスフォベタインブラシの高い生体適合性の発現メカニズムに関する検討を行う.温度応答単分子膜については,トリブロックコポリマーを合成し,温度応答性ブラシの構築へと進める予定であるが,合成面で若干の困難な点がある.方法論から精査し,成功へと結びつけたい.
|