研究概要 |
医用材料やバイオセンサーを作成する際に問題となる、タンパク質等の非特異吸着を解決する手段として種々の生体不活性材料の開発が試みられており、高分子ブラシもその一つである。本研究では、高分子ブラシの機能と水の構造との相関を調査することを目的として、まず、制御ラジカル重合の一種である可逆的付加解裂連鎖移動(RAFT)反応を用いてGlucosylurea ethyl methacrylate(GUMA)を重合し、新規生体不活性ブラシの構築を試みた。得られたPolyGUMAブラシには、アルブミンやγ-グロブリンなどの血液タンパク質のみならず、糖結合タンパク質であるレクチンもほとんど付着しないという特異な挙動を示した。さらに、ブラシの水和構造評価に大きな役割を果たすことが期待される振動分光法を、優れた血液適合性が見いだされているPoly(2-methoxyethylacrylate)(PMEA)薄膜に適用した。同膜に水を収着させ、140Kまで冷却、昇温させながら、水の赤外吸収スペクトルを測定した。冷却速度が0.25K-min^<-1>と遅い場合には, 冷却過程でも結晶化が確認された.この結晶化は明確な液化を経ずに蒸着様の過程により進行した.さらに, 昇温過程でも同様に蒸着様の過程による再結晶化が確認された.このように, PMEA中の水の結晶化および再結晶化はいずれも蒸着過程によりなされており, 再結晶化現象は冷却によって, ある温度以下で拡散できなくなった水が昇温により再び拡散可能になることで生じると考えられる.再結晶化が材料の血液適合性に必須の要件であるとの従来の解釈に一石を投じる発見であった。
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