研究領域 | ソフトインターフェースの分子科学 |
研究課題/領域番号 |
20106009
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
熊木 治郎 山形大学, 大学院・理工学研究科, 教授 (00500290)
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 / 高分子構造・物性 / 超薄膜 / ナノ材料 / 表面・界面物性 |
研究概要 |
本研究では、ソフトインターフェースの2次元状態の極限モデルとして高分子単分子膜を取り上げ、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて各種環境処理および各種環境下(高温、高湿度、有機ガス等)で分子レベルでの観察を行い、ソフトインターフェースの分子レベルでの挙動を明らかにすることを主たる目的として検討を進めている。既に、(1)高温顕微鏡を用いてイソタクチックポリメチルメタクリレート(it-PMMA)2次元折りたたみ鎖結晶の融解挙動を分子レベルでin situ観察できること、(2)相溶性ブレンド単分子膜を用いて単分子膜に可溶化した2次元状高分子孤立鎖のコンフォメーションを観察できることを報告している。本年度は、新たに高分子の基板上での重合挙動について検討を進め、以下の結果を得た。 ラジカル開始剤をモノマー蒸気中で加熱すると、開始剤表面でモノマーが疑似リビング重合的に重合することが知られている(vapor deposition polymerization,VDP)。ここでは、ラジカル重合をin situで観察することを目的に、ごく少量のラジカル開始剤(AIBN)をマイカ上に塗布し、MMAの蒸気下で加熱し、得られたポリマーをAFMを用いて検討した。残念ながら基板上でMMAは粒子状に重合し、直接孤立鎖として観察することはできなかったが、基板上で粒子を溶媒で溶かすことで孤立鎖として観察できることがわかった。分子量既知のPMMAを基板にスピンキャストして作成した分子長-分子量の検量線を用いて、VDP重合した基板上のPMMAの分子量を評価すると、別途アルミパンにAIBNを入れてMMAをVDP重合し、SECを用いて分子量を測定したものと比較して、基板上でVDP重合したポリマーは重合速度が極めて早く、アルミパン中のものに比べて数倍大きな分子量を有していることがわかった。通常、グラフト重合等で表面で重合したものは、バルク中の重合物と同様の分子量を持つと仮定して解釈することが良く行われるが、ここで得られた結果は、表面で重合したものが必ずしもバルク中と同じ分子量を持たないことを示している。基板上で、孤立鎖状に重合させ、その挙動をin situ観察するのが今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2次元折りたたみ結晶の融点降下、相溶性ブレンド単分子膜中での高分子孤立鎖の研究については、ほぼ予定通りに進展し、当初の計画を前倒しして基板上での重合の研究に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
残された研究期間で、既に得られている研究成果のまとめを実施するとともに、各種環境下での高分子鎖の運動挙動の直接観察、高分子重合のin situ観察などのより挑戦的な研究に着手し、今後の研究の発展の芽を作ることを目指す。
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