(1)基板上の高分子孤立鎖の観察は広く検討されているが、高分子のガラス転移温度(Tg)よりはるかに高温での観察はほとんどない。本研究では、マイカ上にスピンキャストしたイソタクチックポリメチルメタクリレート(Tg:40℃)孤立鎖を、高温でAFM観察した。その結果、Tgよりはるかに高温の200℃でも分子鎖が良好に観察できることを見出した。分子鎖の広がりは、Tgの60度程度高温まで一定で、そこから低下し、凝集が始まる。各温度での分子鎖の運動性を評価した結果、高温で分子の運動が活発になるため、マイカとの吸着点が外れて、分子鎖が凝集したものと推察される。分子鎖の凝集が開始する温度を孤立鎖のTgと考えると、基板上の孤立鎖は、バルクに比べて60℃程度上昇していることを示していることになる。また、意外なことに分子鎖の高さは、室温から200℃まで実質上変化を示さない。この理由は、分子鎖がTg以上になっても、分子鎖の実体がなくなるわけではないので、分子鎖全体が軟化しても高さが変わらなかったものと考えられる。孤立鎖の高温での運動性を評価することは、高分子の基板との接着等を検討するための基礎データとして有用であると考える。
(2)基板上のポリ(n-ブチルアクリレート)(PBA)孤立鎖を、タッピングモードAFMで観察すると、高さ像が凹に反転して観察されることを見出した。この異常な現象を、新たに導入した各測定点でフォースカーブを測定して画像化する、ピークフォースタッピングモードのAFMで検討した結果、マイカとPBA鎖上でフォースカーブが異なり、マイカの方が、カンチレバーを強く吸着してカンチレバーの振幅を減少させることにより生じているアーチファクトであることがわかった。タッピングモードのAFMでは、サンプルとの相互作用によりフィードバックに用いる振幅が影響を受けるため、多成分系の観察では注意を要する。
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