H23年度までに、フェニルボロン酸(PBA)を含有した糖応答型の高分子ゲルならびにマンノースを側鎖に導入したレクチン応答性の高分子ゲルを用いた評価を行い、各々ターゲット捕捉に伴うゲート電極/高分子ゲル界面での含水率変化に同期した誘電率変化を信号変換機序とすることで、これら電気的に中性な分子ならびにタンパク質の検出が可能となることを実証してきた。これらの成果を踏まえ、H24年度は、「架橋されていない直鎖(リニア)ポリマーを検出界面とした場合にも同様の機序が成り立つ」ことを実証するべく、これを検証した。三次元的に架橋されたゲルにおいては、その膨潤(収縮)過程が高分子編み目の協同拡散に束縛されるため、ゲル層の厚みに依存してその応答時間が著しく遅くなるが、架橋構造を取り除くことでこれが回避される。また、リニアポリマーを利用した(上記機序による)検出プラットフォームが確立されれば、バイオトランジスタの適応対象を飛躍的に広げることが出来る。一つの系として、フェニルボロン酸誘導体とN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)からなる糖応答性の共重合体を用いた。金電極上に原子移動ラジカル重合によりポリマーブラシを導入した。フェニルボロン酸は疎水性であるが、グルコースと反応することでアニオン化して親水性となるため、共重合体の下限臨界共有温度(LCST)はグルコース濃度依存的に上昇することが確認された。対照として、PNIPAAmのみを修飾した金電極の電位測定も同様に行った。電位測定の結果、フェニルボロン酸を含有する共重合体においてのみグルコース選択的な電位の上昇が観測された。初期応答は数分程度で完了しており、ゲルを界面とした場面に比べて格段に速い応答速度が得られた。今後さらなる系の単純化と最適化を進めることで、他のバイオマーカー検出にも有効な普遍的プラットフォームとしての展開が期待される。
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