ソフト界面で起こるダイナミックな現象の一つにローリングがある。例えば、白血球が血管内壁をローリングすることで炎症部位へ集積する現象は有名である。本研究では、リガンド修飾したソフト界面上で起こる細胞のローリング現象を詳細、かつ、動的に把握し、その特性ゆえに発揮される機能を、新たなバイオマテリアル開発へと応用する。これまでに、シリコンチューブ内腔にポリアクリル酸の高分子鎖を導入したリガンド固定界面を構築し、この界面において特定の表面マーカー分子密度を有する細胞を分離できることを明らかにした。しかし、細胞と基材との非特異的な相互作用は細胞の連続的なローリングを阻害し、分離精度を低減させる。その原因として、界面におけるリガンド固定化密度やその配向性が影響しているものと考えている。そこで本年度は、細胞が特異的にローリングできるソフト界面を構築するため、抗体を単層でかつ、均一に固定化できる手法について検討した。 リガンドを単層で固定化するために、種々の条件でガラス表面に対してシランカップリング剤の処理によりアミノ基を導入した。X線光電子分光法(XPS)により修飾したガラス表面の構造を解析した結果、表面からの深さ16nmの範囲でのみアミノ基に由来する400eV付近のXPSシグナルを検出した。導入したアミノ基を活性化した後に、還元型抗体を固定化した。還元型抗体を固定化することにより、抗体認識部位の配向性を均一に制御することが可能となる。蛍光修飾抗体を固定化した後、蛍光顕微鏡において界面を観察した結果、抗体が均一に固定化されている様子を確認した。また、この界面における細胞分離挙動も検討した結果、細胞ローリングに起因するプロファイルを得ることができた。このような検討から、リガンドを均一に固定化したソフト界面を構築する手法を確立するこができた。
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