計画研究
本年度は、圧力のランダムウォークを実現する、この焼き戻し法をBPTIやubiquitinなどの小タンパク質の高圧変性に関する研究に適用して、NMR実験との比較をすることと、シャペロニンGRO-ELの構造ゆらぎ及びATPとの合体についてのレプリカ交換アンブレラサンプリングシミュレーションを実行することを目指した。前者については、当初の計画以上に進展が得られた。特に、ubiquitinの圧力焼き戻しシミュレーションの結果、化学シフトの計算を行ったところ、実験では、各アミノ酸ごとの測定において、低圧と高圧における値の差が、70番目のアミノ酸のみ大きかったのであるが、我々の計算結果はこの実験結果を見事に定量的に再現した。そして、なぜ、70番目のアミノ酸だけに化学シフトの大きな変化が得られるのかの理由が、70番目のアミノ酸に関わる主鎖間の水素結合が高圧になると切れることに起因すると推測した(現在、論文を準備中)。後者の計算については、残念ながら大きな進展は得られなかった。しかし、以下のような、想定外の薪しい結果が得られた。まず、以前に開発したレプリカ交換分子動力学法を脂質2重膜の系に適用し、ゾル・ゲル相転移を研究した。特に、ゲル相に直立ゲル相と傾いたゲル相の2種類あることを見出した。また、以前開発したレプリカ交換傘サンプリング法をタンパク質への薬剤候補分子のドッキングシミュレーションに適用し、自由エネルギーの最小状態として、正しいドッキング構造の予測に成功した。5つの系についてテストして、その全てにおいて実験結果との一致を見たが、広く使われているドッキングソフトGOLDはそのうちの2つにおいて予測に失敗しているので、本手法の優位性を示すことができた。
1: 当初の計画以上に進展している
構造揺らぎを促進する拡張アンサンブル法を開発するとともに、それらを実際の系に適用して、実験結果と定量的な比較ができるレベルまでのシミュレーション結果を得ているので。
今後の推進方策は、ここまで順調に進んでいるので、これまで通りで良いと考える。構造揺らぎを促進する拡張アンサンブル法の一般論は平成21年度に既に完成させたが、その後も、この一般論の特別な例として、圧力焼き戻し法など強力な拡張アンサンブル法の開発に成功した。今後も、更に新しい拡張アンサンブル法の開発に努める。
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