本年度は超高磁場NMR計測を通じて糖鎖およびマルチドメインタンパク質のコンフォメーションの揺らぎを解析するためのモデル分子の設計と作出を行った。 (1)糖鎖の動的3次元構造を探査するための常磁性タグによる化学修飾 モデル糖鎖(マルトヘキサオースおよびキトビオース)を対象にして、それらの還元末端をEDTAのアナログにより化学修飾する方法を確立した。これに常磁性金属イオンを加えて超高磁場NMR計測を行うことにより、糖鎖のコンフォメーションを反映する選択的なスペクトル変化が生じることを確認した。一方、酵母の変異体を利用した代謝標識により、8残基のマンノースを含む高マンノース型糖鎖を^<13>Cによる均一標識を施した試料として大量に調整することに成功した。これらにより、糖鎖のコンフォメーションとその揺らぎについて精密解析を実施する技術基盤を整えることができた。 (2)マルチドメインタンパク質のモデル系としてのユビキチン鎖の構築 試験管内における酵素反応によってユビキチン鎖の安定同位体標識体を作出し、それらをマルチドメインタンパク質のモデル分子としてNMR解析に供した。特に、イソペプチド結合を介して直鎖状および環状に連結されたユビキチン2両体のNMRスペクトルを種々のpH条件下で比較解析することによって、溶液中におけるユビキチンユニット間の相互作用のダイナミクスに関する情報を原子レベルの分解能で取得することに成功した。
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