(1)NMR計測による糖鎖の揺らぎの解析 糖鎖安定同位体標識体の大量発現法の応用範囲をM8B以外の高マンノース型糖鎖の生産にまで拡張することを試みた。具体的には、ゴルジ体酵素に加えてER α1-2マンノシダーゼを欠失した酵母変異体を用いて^<13>C標識を施した高マンノース型糖鎖M9の生産に成功した。また、高マンノース型糖鎖に常磁性タグを導入するための反応条件を確立したことにより、多様な糖鎖を対象にして常磁性効果を利用した動的高次構造研究を展開することが可能となった。 (2)マルチドメインタンパク質におけるドメイン間相互作用の揺らぎの検出 Lys48を介して連結した野生型ユビキチン2量体の結晶構造および2か所でイソペプチド結合を形成して環状化したユビキチン2量体も溶液構造を決定したところ、それらはそれぞれ、疎水性表面を露出した構造と遮へいした構造を示していた。NMR解析の結果、野生型ユビキチン2量体は溶液中において両構造の間の平衡にあるが、その割合は疎水性表面を露出したものの方が高いことが明らかとなった。また、X線小角散乱法により、完全長のプロテインジスルフィドイソメラーゼについて、活性部位の酸化還元状態の変化に伴うドメイン間相互作用の変動を明らかにした。 (3)糖鎖クラスターとアミロイドβの相互作用の解析 放射光VUV-CD計測および部位特異的安定同位体標識と組み合わせたNMR計測によって、GM1ミセル上におけるアミロイドβ(Aβ)の分子間相互作用を解析した。その結果、Aβはミセル上で高密度に存在する条件下においてC末端部分がチオフラビン反応性を有するβ様構造を形成することが明らかとなった。
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