計画研究
(1)糖鎖の揺らぎの解析平成22年度までに確立した手法を用いて高マンノース型糖鎖M9に常磁性タグを導入し、NMR計測によって立体構造情報を反映した常磁性効果を観測することに成功した。さらにガングリオシドGM3およびGM2の糖鎖に常磁性タグ修飾法を拡張するとともに、分子動力学計算とNMR法を組み合わせた、糖鎖の動的立体構造解析法を確立した。また、常磁性タグを付加した糖鎖と細胞質レクチンFbs1とのNMR相互作用解析を実施した。(2)アミロイド形成機構の解明糖鎖クラスター面の曲率や密度を制御することを目的に、GM1ガングリオシドを組み込んだナノディスクの調製法を確立した。また家族性変異型アミロイドβ(Aβ)の発現・精製法を確立した。こうして得られたFlemish型変異Aβについて各種ガングリオシドクラスターを用いたNMR解析を実施し、ガングリオシドクラスターに対する結合特異性と、相互作用に伴うAβのコンフォメーション変化を明らかにした。(3)マルチドメイン・マルチサブユニットタンパク質の構造揺らぎの探査マルチドメインタンパク質であるプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)について、核オーバーハウザー効果を利用したNMR解析を行い、活性部位近傍のトリプトファン残基が酸化・還元状態の違いにより、異なるアミノ酸残基と相互作用していることを明らかにした。このことからトリプトファン残基がドメイン間の相対配置を決定する重要な因子であることを示すことができた。また、タンパク質の重水素標識を利用した中性子小角散乱(SANS)法により、ホモオリゴマータンパク質のサブユニット交換の速度論解析を行う方法を開発した。この方法は今後様々なオリゴマータンパク質に応用可能であり、4次構造の揺らぎに関する有用な知見をもたらすことが期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
常磁性効果を応用した糖鎖の揺らぎの解析法を、高マンノース型糖鎖に加えてガングリオシドの糖鎖へ展開することができた。また、マルチドメインタンパク質の酸化還元状態の変化と連動した構造揺らぎの作動メカニズムの一端を明らかにすることができた。これにより研究が当初の予想以上に進展した。
研究計画は順調に達成されている。引き続き、超高磁場NMR装置を縦横に活用することにより、複雑なタンパク質・複合糖質およびそれらの超分子複合体の立体構造の揺らぎを、様々な時間的・空間的スケールで観測し、分子機能との相関を解明することを目指す。さらに、安定同位体標識を活用したNMRや中性子小角散乱の計測により、生体分子の揺らぎの問題に実験的基盤を提供する。また、領域全体に寄せられている医学との連携による新しい学際領域の創出に対する期待に応えるために、本課題においても医学・薬学的な観点に立脚した研究連携を強化したいと考えている。具体的には、神経変性疾患にかかわる天然変性タンパク質や複合糖質の分子構造ダイナミクスを研究することを通じて、それらを標的とする薬物の設計・探索および作用機序の解明に貢献する。
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すべて 雑誌論文 (16件) (うち査読あり 16件) 学会発表 (51件) 図書 (1件)
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