本研究では、4塩基コドンを用いた非天然アミノ酸のタンパク質への部位特異的導入技術を用いて、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のドナーとアクセプターとなる2種類の非天然アミノ酸をタンパク質の特定部位へ導入することで、タンパク質の構造揺らぎをFRETを用いて計測することを試みている。また20種類の天然アミノ酸以外に、多種類の非天然アミノ酸のタンパク質への導入系を確立し、非天然アミノ酸置換により揺らぎを制御できるシステムを開発する。そのためにまず、タンパク質のN末端あるいはN末端領域に蛍光標識アミノ酸を効率的に導入する手法を確立した。また、導入可能なアミノ酸の構造や最適なN末端アミノ酸配列についての検討も行ない、N末端領域では多様な構造の非天然アミノ酸の導入が可能であることを明らかにした。さらに、その手法を用いて、実際にマルトース結合タンパク質などのN末端にFRETのドナーとなる蛍光標識アミノ酸を導入しておき、内部の様々な部位に非蛍光性アクセプターとなる非天然アミノ酸を導入した。栄光寿命測定とその解析により、この手法によりタンパク質の特定残基における構造揺らぎを評価できる可能性があることが示された。また、光安定性の高い2種類の蛍光標識アミノ酸を導入することで、二重蛍光標識タンパク質の構造変化に伴うFRET効率の変化を一分子蛍光測定により解析できることも確認された。一方、これらの蛍光測定法と組み合わせることで、揺らぎに対する非天然アミノ酸置換の影響を系統的に評価できるシステム構築に向けて、フェニルアラニンの多種類の類似体や、PEG鎖などを付加した非天然アミノ酸について、新たにタンパク質への導入法を確立した。
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