黄色ブドウ球菌核酸分解酵素(SNase)を用いて、生理的条件下で天然構造をとらないが、基質結合により天然構造にまき戻る天然変性蛋白質のモデル系を数種作製した。これまでに、基質結合による誘導折りたたみの速度論的測定から、基質結合が折りたたみに先立って起きる(Binding before folding)機構と折りたたまれたのちに基質結合が起きる(Folding before binding)機構の両者が実現しうることが示されている。前者のより具体的な証明は、非天然構造-基質複合体の存在を示すことである。前者の機構に従う変異体について、φ値解析を適用した結果、基質結合部位を構成するK84、Y85、Y113、Y115およびその近傍のT82、R105、V114は、複合体で天然構造様トポロジーをとっているが、αヘリックス1に位置するV51やヘリックス3に位置するK127、Q131は構造をとっていないことが示された。これは、前者の誘導折りたたみ機構を証明するものである。また、この機構が実現する変異体はW140を核とするドメイン形成を阻害する変異体である。W140を核とするドメイン形成は、天然構造に折りたたむために必須な相互作用であるC末ドメインとN末ドメイン間の疎水相互作用を生みだす。W140を核とするドメイン形成ができない変異体に対しY54C/I139Cの二重システイン置換体を作製し、人工的にSS架橋させた。人工的に導入したSS結合は、失われたC末-N末間の相互作用を代用し、天然構造への折りたたみを促進した。また、速度論的測定から、その折りたたみ機構は野生型と同じであることを示した。
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