天然変性蛋白質の共役した結合と折り畳みの分子機構を理解することは、標的認識機構や天然変性蛋白質の生理的意義の理解に直結し、揺らぎと機能の関係を理解するために本質的である。本研究においては、SNaseやDHFR等の機能性蛋白質を用いて、天然変性蛋白質のモデル系となる変異体を系統的に作製し、共役した結合と折り畳みの分子機構を解明し、構造形成や分子認識と揺らぎの相関を明らかにすることを目的とした。 DHFRの系統的アラニン挿入により、1)構造、酵素活性ともに失う変異体、2)構造を失うが酵素活性は保つ変異体、3)構造を保つが酵素活性を失う変異体、4)構造、活性とも保つ変異体の4種類が得られた。挿入により構造や酵素活性が失われる領域は、一次配列上で連続して現れる。これらの領域では配列の連結性が重要であり、構造形成や酵素活性に必須の相互作用を担う領域であることがわかった。これらの領域を構造エレメント、機能エレメントと名付け、蛋白質はこれらのエレメントとそれをつなぐリンカーから構成されるという新しい構築原理を提唱した。また、2)の変異体は、天然変性蛋白質のモデル系として用いることができ、阻害剤による誘導折り畳みを確認した。一方、3)の中の数種類は、活性部位と遠く離れた領域への挿入が活性を失うという予想外の結果を示した。この部位は揺らぎを制御している可能性がある。 SNaseにおいても、構造を保ったまま活性を失う変異体が数種得られた。これらの阻害剤存在下での結晶構造解析に成功した。活性部位近傍の温度因子が野生型よりも大きくなっても小さくなっても活性が低下しており、活性部位近傍の揺らぎが失活に関係していることが示された。
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