研究領域 | 揺らぎが機能を決める生命分子の科学 |
研究課題/領域番号 |
20107006
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
片岡 幹雄 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (30150254)
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キーワード | 天然変性蛋白質 / 誘導折り畳み / 分子認識 / 変性構造 / 結晶構造解析 / Staphylococcal nuclease / FRET |
研究概要 |
本研究では、タンパク質の構造形成や分子認識と揺らぎの相関を明らかにすることを目的としている。この目的を達成するために、黄色ブドウ球菌核酸分解酵素(SNase)を用いて、生理的条件下で構造を取らないが酵素活性を有する変異体や安定な構造を取りながら酵素活性を失う変異体を多種作製してきた。本年は、前者の変異体に対して、蛍光性の非天然アミノ酸を2種類導入した試料を作製し、FRETにより生理的条件下での構造を特徴づけ、さらに基質認識に伴う動力学の変化の検出を行おうとした。4塩基コドンおよびアンバーコドンを利用し、蛍光ドナーとアクセプターとなる2種類の非天然アミノ酸を導入した変異体を5種類作製できた。これらについてFRETを観測できたが、定量的な解析にはいたらなかった。タンパク質の精製に問題のあることが判明しており、現在その改善に取り組んでいる。この方法は、任意の箇所に蛍光性残基を導入できるため、変性構造の特徴づけには有効であると期待される。 SNaseのΩループを欠損させると、安定な構造を形成するが酵素活性を失う。また、このループをアラニンに置換すると活性をわずかに回復する。ループの揺らぎと活性の関係を理解するために、欠損変異体、ループを全てアラニンに置換した変異体について、リガンド結合状態の結晶構造解析を行った。着目するループの直前に触媒部位E43が存在する。E43を含め、温度因子を比較したところ、野生型は両者の中間の値を示した。揺らぎがなくても、強く揺らぎすぎても活性を制御できないことがわかった。また、切断されるリン酸基、活性に必要なCa^<2+>と水及びE43の位置関係は、3者でほとんど保たれていたが、距離は0.3A程、角度も1°程度のわずかな違いがあった。ループの揺らぎがこの微妙な位置関係のずれを制御していると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災の影響で、日本の中性子源がすべてストップしたため、中性子散乱による動力学研究は中断せざるを得なかった。しかし、蛍光性非天然アミノ酸の導入に成功し、FRETを利用するめどが立ち、中性子実験中断の影響を最小限に抑えることができた。また、新規に見出された変異体の結晶構造解析が進んでおり、こちらは当初計画以上の成果が得られ始めている。以上から、研究はおおむね順調に進展していると判断している。 研究全般に関して、成果は着実に出ているが、学会発表は別として、論文にするペースが遅く、公表が滞っているのが反省点である。
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今後の研究の推進方策 |
天然変性タンパク質のモデル系に関する中性子による動力学研究については、H24年度はJ-PARCが復旧し、実験が可能になることに加え、フランスの中性子源での実験が可能になったため、中断した実験を集中して行うことができる。これらにより、計画通り研究を進めることができる。天然変性タンパク質のモデル系の構造情報を得るために、非天然アミノ酸導入によるFRETを駆使した研究を進める。現在、タンパク質精製段階に問題点が見出されている。克服のめども立っているため、FRETの定量的解析まで行う予定である。一方、構造形成をしながら活性を失う変異体については、リガンドフリーの状態の結晶構造解析を行う。現在、結晶化条件を探索中であるが、微小結晶は何とかできるので、今年度中には構造解析に着手できると期待している。 今年度は、これまで得られた成果に基づき、できるだけ多くの論文を発表したいと考えている。
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