本研究では、タンパク質の構造形成や分子認識と揺らぎの相関を明らかにすることを目的としている。この目的を達成するために、黄色ブドウ球菌核酸分解酵素(SNase)を用いて、生理的条件下で構造を取らないが酵素活性を有する変異体や安定な構造を取りながら酵素活性を失う変異体を多種作製してきた。蛍光性の非天然アミノ酸を2種類導入した試料を作製し、FRETにより生理的条件下および変性条件下の構造を調べたところ、生理的条件下では、変性条件下よりも構造が形成されていることが示唆された。さらにシステインによるトリプトファン三重項解消を利用した新しい変性構造解析法を開発した。変性構造であっても、短距離にはある程度の秩序構造があることがわかってきた。これらの方法は、揺らぎの大きい状態の構造を特徴づけるために有効である。 安定な構造を形成するが酵素活性を失うSNaseのΩループ欠損変異体の結晶構造解析が進んだ。リガンド非結合時と結合時のループを含む部分の構造変化が、野生型では大きいが変異体では小さいことが明らかになった。それにもかかわらず、活性部位のE43の基質に対する配向や相対距離は、野生型と変異体では大きくは異なっていない。基質結合時の揺らぎの大きさの重要性が示唆されたが、同時にループ部分が活性部位を溶媒から保護している効果も大きいようであることがわかった。
|