生体分子の揺らぎと機能は密接な関係にあり、生体膜およびタンパク質の揺らぎを理解することは、生命現象の本質を解明する上で極めて重要な課題となっている。研究代表者らは、脂質分子とミセル分子から成るハイブリッドリポソーム(HL)が、抗がん剤を含まず、がん細胞の細胞膜に特異的に融合・蓄積してアポトーシスを誘導することを見出し、副作用のない新しいがん治療の可能性を明らかにしている。しかし、がん細胞を正常細胞と区別するHLの膜融合プロセスには、物理化学的概念を導入する必要がある。そのため、細胞膜の揺らぎの指標として膜流動性に焦点を合わせ、「流動性の大きなHL単独で流動性の大きながん細胞に対してのみ選択的にアポトーシスを誘導する」ことの一般則を確立する予定である。さらに、細胞膜をターゲットとするHLの制がん効果の分子論的機構解明のため、計算科学的手法により膜の揺らぎとがん抑制作用との相関性を明らかにする。
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