研究領域 | 揺らぎが機能を決める生命分子の科学 |
研究課題/領域番号 |
20107008
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
平田 文男 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 教授 (90218785)
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研究分担者 |
吉田 紀生 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (10390650)
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キーワード | 3D-RISM / 分子認識 / タンパク質の揺らぎ / 自由エネルギー / ダイナミクス / 創薬 / アスピリン / Phospholipase A2 |
研究概要 |
本研究では、従来の3D-RISM理論を改良して、直接、創薬に応用できる新しい理論、uu-3D-RISM理論を提案し、その応用例として、Phospholipase A2に対するアスピリンの結合モードを解析した。このタンパク質は、発熱や痛みのもとになるアラキドン酸を合成することで知られている。また近年、非ステロイド性の薬として有名なアセチルサリチル酸(アスピリン)も結合することが実験によって明らかにされた。新たな薬の開発にもつながるため、創薬分野でモデルタンパク質の一つとされている。uu-3D-RISM理論を用いてこのようなタンパク質-リガンド分子系を解くと、タンパク質の内外におけるリガンド分子の分布関数を求めることができる。分布関数は、その位置にどのくらいの確率でリガンド分子が存在するかの指標を表す関数である。従って、分布関数が大きい値を取る箇所は、そこにリガンドが結合しやすいことを意味する。この分布関数を解析すれば、自動的にリガンド分子がどこにどのように結合するのかが分るのである。 今回は、そのような解析のためのスコア関数を定義し、それに基づいてリガンド分子であるアスピリンの位置および配向を決定した。解析結果、3D-RISM理論から予測した構造がX線結晶解析で得られた構造とほぼ一致していることが分かった。[J.Chem.Theor.Comp.,7,3803(2011)に既報] スコア関数を用いた解析は、企業などの創薬研究でも同じように行われているが、その多くは物理化学的な根拠を持っていない。言い換えると、多くの場合、鍵と鍵穴のように幾何学的な議論しかしていない。我々の研究の強みは、分布関数という物理化学的に重要な意味を持つ量を基にしていることである。今回のような解析が確立すれば、より確かな創薬研究が可能になると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究はリガンドの認識過程における蛋白質の構造揺らぎと溶液のダイナミクスの動的相関を記述する理論を構築することを目的としている。この目的に沿って、次の二つの理論的枠組みを提案した。(A)3D-RISMから求めた自由エネルギー曲面上でのダイナミクス(MD)。この理論は方法論的に完成し、現在、シニョリンのフォールデイングの計算を実施中である。(B)一般化ランジェヴァンダイナミクス。この方向は、その理論的枠組みを完成し、現在、数値計算上の問題点を克服するための努力を行なっている。 また、分子認識の平衡論においても、大きな進展があった。従来の3D-RISM理論では取り扱うことができなかった比較的大きなリガンド(例:アスピリン)を取り扱う方法論(uu-3D-RISM)を提案したことである。この方法により、3D-RISM理論で取り扱うことができる薬剤化合物候補の種類が大幅に増大した。
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今後の研究の推進方策 |
次の三つの方向で研究を進める。 (1)自由エネルギー曲面上のMD法をシニョリンの「高温変成」および「巻き戻し過程」に応用し、その反応機構を解析する。 (2)一般化ランジェヴァンダイナミクスの数値計算アルゴリズムを完成し、これを蛋白質の天然構造まわりのダイナミクスに応用する。 (3)3D-RISMおよびuu-3D-RISMをインフルエンザウイルスのM2チャネルをターゲットとするドラッグデザインに応用する。
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