分子シャペロンは細胞内の蛋白質フォールディングに関わり、分子レベルの生命現象である蛋白質フォールディングと細胞レベルの生命現象とを結びつける重要な概念である。本研究では、分子シャペロンの構造揺らぎと機能発現との関係を物理化学的に明らかにする。ジメチルスルフォキシド(DMSO)停止水素重水素(H/D)交換法と二次元NMRを利用して、さまざまなシャペロニン複合体中のGroESのH/D交換反応を追跡し、生物機能が構造揺らぎをどのように利用しているかを明らかにする。平成21年度は、以下の研究を行った。 二次元NMRスペクトルにおけるGroESの主鎖NHプロトンの帰属(95%DMSO条件下)をもとに、pH6.6における遊離GroESのH/D交換反応の解析を、DMSO停止H/D交換二次元NMR法を用いて行った。その結果、GroES7量体のフレキシブル・ループと呼ばれるGroEL結合部位とGroESの頂上にあるループ領域はH/D交換に対する保護度が低いが(保護因子10^4以下)、GroESのコアにあるβ構造領域は安定で保護因子が10^5以上であることが分かった。しかし、H/D交換反応をDMSOで停止してNMR測定用の試料を調製後、その都度二次元NMRスペクトルの測定を行ったため、H/D交換反応曲線測定点間の時間間隔を3時間より短くすることができなかった(95%DMSOによるH/D交換反応停止は完全ではないので、別の手段で反応を完全停止しない限り、その都度NMRスペクトルを測定しなければならない)。そのため、保護因子10^4以下の低保護度領域のH/D交換反応を解析することができなかった。今後、急速凍結による反応停止などを利用してH/D交換反応解析の時間分解能を上げる必要がある。
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