分子シャペロンは細胞内の蛋白質フォールディングに関わり、分子レベルの生命現象である蛋白質フォールディングと細胞レベルの生命現象とを結びつける重要な概念である。本研究では、分子シャペロンの構造揺らぎと機能発現との関係を物理化学的に明らかにする。ジメチルスルフォキシド(DMSO)停止水素重水素(H/D)交換法と二次元NMRを利用して、さまざまなシャペロニン複合体中のGroESのH/D交換反応を追跡し、生物機能が構造揺らぎをどのように利用しているかを明らかにする。平成22年度は、以下の研究を行った。 液体窒素中への急速凍結による反応停止と95%DMSOによるH/D交換反応停止を利用してGroES7量体の天然条件下におけるH/D交換反応の解析を行った。その結果、H/D交換反応測定の時間分解能を10分まで短くすることが出来た。TROSY-NMR法を用いた予備的なH/D交換反応測定の結果と比較し、両者でよく一致する結果が得られた。GroESのモバイルループ領域の保護度が小さく構造的に大きくゆらいでいることが分かった。 GroEL/GroES複合体中のGroES部分のH/D交換反応追跡のためには、^<15>N標識したGroESと非標識GroELの複合体を作成して、H/D交換反応後、95%DMSO中でゲルろ過等の手法を用いて標識GroESと非標識GroELを分離する必要がある(DMSOで変性状態のGroELが高濃度共存していると溶液粘度が増して良好なNMRスペクトルに得られないことが分かっている)。適切な分離条件を検討するため、HPLCによるGroELとGroESの分析を行った。
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