研究概要 |
分子シャペロンは細胞内の蛋白質フォールディングに関わり,分子レベルの生命現象である蛋白質フォールディングと細胞レベルの生命現象とを結びつける重要な概念である。本研究では,分子シャペロンの構造揺らぎと機能発現との関係を物理化学的に明らかにする。ジメチルスルフォキシド(DMSO)停止水素重水素(H/D)交換法と二次元NMRを利用して,さまざまなシャペロニン複合体中のGroESのH/D交換反応を追跡し,生物機能が構造揺らぎをどのように利用しているかを明らかにする。平成23年度は,以下の研究を行った。 昨年は,GroES単独でのH/D交換反応をTROSY-NMR法を用いて追跡した(20 mM KCl,25 mMリン酸緩衝液,pH6.5,25℃)。その結果,GroES複合体のコア領域の交換反応は追跡できたが,モバイルループ領域は交換が速く追跡が不可能であった。交換速度の速いアミド水素の交換反応を解析するため,天然条件下で水素交換反応を行った後DMSO停止H/D交換二次元NMR法と920 MHz NMR装置を用いて,各反応時間における残存アミド・プロトン強度を測定した。また,重水素化DMSO中のGroESの約70個のアミド水素の帰属を終えており,これらの帰属に基づいて各アミド水素のH/D交換反応を解析している。 大腸菌シャペロニンGroELの頂上ドメインを遺伝子工学的に単離した蛋白質はミニシャペロンと呼ばれ,それ自身で独立に折り畳まる。ミニシャペロンは,天然条件下では,β2ミクログロブリンのアミロイド形成を抑制するなど,不完全ながらも分子シャペロンとしての働きを有する。しかし,ミニシャペロンの一次配列をTrovato等が開発したPASTAで解析すると,アミロイド形成能の高い領域の存在することがわかった。そこで,チオフラビンT 結合に伴う蛍光測定,透過型電顕観察等の手法を用いて,さまざまな条件下でアミロイド形成を調べた。その結果,酸性条件下では,ミニシャペロン自身がアミロイド線維を形成することが明らかとなった。また,酸性条件下でβ2ミクログロブリンも共存させると,反応初期にはβ2ミクログロブリンのアミロイドを抑制する分子シャペロンとしての働きも有するので,ミニシャペロンはそれ自身アミロイド形成能を持ちながら分子シャペロンとしても働く二面性を持っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GroES遊離状態のH/D交換反応の解析をほぼ終え,GroELと複合体形成時のH/D交換反応解析を来年度行い,遊離状態GroESの結果と比較することにより,機能を持ったシャペロニン複合体の形成が,GroESの構造揺らぎにどのように影響するかを明らかにすることが出来る。
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今後の研究の推進方策 |
二次元NMR法によるGroELS-GroEL複合体形成反応の解析を行う。また,複合体形成反応を等温滴定型熱量計によっても解析し,複合体形成に伴う熱力学量を求め,複合体形成の分子機構を明らかにする。機能的に異なるさまざまなGroEL/GroES/ヌクレオチド複合体中のGroES部分のH/D交換反応を追跡し,既に明らかにされている遊離GroES7量体のH/D交換反応の結果と比較することによって,シャペロニン複合体の構造揺らぎと機能発現の関係を明らかにしたい。
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