計画研究
フラーレンに内包された水素分子は、骨格内の磁場環境を鋭敏に認識する有用なNMRプローブとなる。本研究では、代表的な高次フラーレンであるC70の二価アニオン種の芳香族性を解明することを目的として、水素分子を内包したC70の二電子還元を行った。真空下CD3CN中において、水素分子を1個または2個内包したC70の黒色懸濁液に、過剰量のCH3SNaを加え、二価アニオン種を発生させた。この溶液の1H NMRを測定したところ、H2@C70ジアニオンの内包水素が-13.80ppmに観測された。これは、中性のH2@C70の内包水素が-23.97ppmに観測されたことを考慮すると、10.2ppmの大きな低磁場シフトに対応している。すなわち、C70の二電子還元はC60の場合と同様にフラーレンの芳香族性を顕著に低下させることが明らかとなった。一方、(H2)2@C70ジアニオンの内包水素(-14.02ppm)はH2@C70ジアニオンよりわずかに高磁場側に観測された。2個の水素分子はC70骨格内で立体的要因により中心から外れた位置に存在し、その位置では、骨格中心よりも磁気的な遮蔽がわずかに弱まっているためと考えられる。理論計算によってC70骨格内側の長軸上におけるNICS値を算出したところ、C70ジアニオンの中心部でNICS値が正側にシフトし、実験結果が支持された。次に、1,4-付加体および1,2-付加体を合成し、内包水素の化学シフトを比較したところ、それぞれ-17.54ppmおよび-22.16ppmに観測され、付加様式によって明確に異なる値を示した。このように、内包水素分子が外側のフラーレン骨格の電荷や付加様式に鋭敏なNMRプローブになることを明らかにした。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (11件)
Acc.Chem.Res. 43
ページ: 335-345
J.Am.Chem.Soc. 132
ページ: 4042-4043
Helv.Chim.Acta 92
ページ: 298-312
Phys.Rev.Lett. 102
ページ: 013001 (4)
J.Chem.Phys. 130
ページ: 081103 (4)
Phys.Rev.Lett. 103
ページ: 073001 (4)
Chem.Lett. 39
ページ: 298-299