研究概要 |
色素-フラーレン連結体は二つのユニット間の距離が短い場合,高速・高効率のエネルギー移動や,電子移動後に生成する長寿命の電荷分離状態など,興味深い物性を示す。そのため,極限まで色素部位を近接させた系として,色素骨格をフラーレン骨格に直接導入した系に興味が持たれる。本研究ではフラーレンC60の炭素一つが窒素に置き換わったアザフラーレンC59Nを用いると,電子豊富なベンゼン環を直接C59Nに導入できることに着目し,有機色素がC59N骨格に直結した分子の合成を行い,その電子物性および光励起状態からの緩和過程について詳細に検討した。二量体(C59N)2からC59Nカチオン種を発生させることで,有機色素であるBODIPY誘導体を直接C59N骨格に導入した連結体を合成した。続いて,連結体の溶液に対して,BODIPY骨格での吸収に対応する460nmのレーザー光を照射し,フェムト秒過渡吸収スペクトル測定により,励起状態の緩和過程を追跡したところ,光照射後2ps後にはC59N部位由来の一重項励起状態の吸収が観測された。次に,連結体におけるエネルギー移動の速度を調べるために,BODIPY部位由来の発光特性を測定した。BODIPYの蛍光量子収率はΦ=0.91であるのに対し,連結体ではほぼ完全に消光され(Φ<0.005),連結体の蛍光寿命(320fs)はBODIPY(5.6ns)に比べて著しく短い。また,連結体の蛍光寿命は,BODIPY誘導体で報告されている,高次励起状態から最低励起状態への内部転換の時間スケール(100-260fs)と同程度であり,C59N骨格に色素骨格を直接導入することで,きわめて速いエネルギー移動が起こることがわかった。
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