研究概要 |
C60を出発物質としてフラーレン骨格に穴を開け、その開口部より小分子を導入し、さらに開口部を元通りに閉じる手法は最も明快な内包フラーレンの合成法である。これまで我々は有機合成の手法を用いて、新しい内包フラーレンの選択的な合成法を開拓し、H2@C60, H2@C70, (H2)2@C70, He@C60, He@C70の大量合成を報告してきた。今回、フラーレン上の開口部が加熱条件により自発的に拡大する新しい開口フラーレンを設計し、水単分子を内包したC60の合成を行った。 C60とピリダジン誘導体との熱反応と引き続く一重項酸素との反応により12員環開口体を合成し、水の存在下N-Methylmorpholine N-oxideとの反応により新しい13員環開口体を合成した。次に、9000気圧の高圧条件下トルエン中120 °Cにて加熱することにより、この開口部を「動的制御」によりin situで拡大し、水分子をほぼ定量的に内部に挿入した。その後、開口部を修復することにより、水分子内包C60の合成を達成した。 得られたH2O@C60の構造は、単結晶X線結晶構解析によりニッケルポルフィリンとの分子錯体として決定された。内包された水分子のプロトンの位置は実験的に決定され、OH結合はニッケルの方を向いていた。また13C NMR測定からは、内包された水分子とフラーレン骨格との間に弱い磁気的相互作用が存在することがわかった。一方、UV-Vis, IRならびに電気化学測定の結果、水分子とC60の電子的な相互作用は非常に小さく、この水分子は疎水性のサブナノサイズの空間に閉じ込められた水素結合をもたない構造であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フラーレンC60は内径約3.7 Ǻの中空構造をもち、その空間はH2, H2O, CO等の小分子を内包するのに最適な大きさであるが、従来の物理的な手法ではこのような分子を内包したC60を合成することはできなかった。C60を出発物質としてフラーレン骨格に穴を開け、その開口部より小分子を導入し、さらに開口部を元通りに閉じる手法は最も明快な内包フラーレンの合成法である。これまで我々は有機合成の手法を用いて、全く新しい内包フラーレンの選択的な合成法を開拓し、H2@C60, H2@C70, (H2)2@C70, He@C60, He@C70の大量合成を報告してきた。今回、フラーレン上の開口部が加熱条件により自動的に拡大する新しい開口フラーレンを設計し、水単分子を内包したC60の合成を行った。また、開口フラーレンではフラーレンのπ共役系に直接官能基を導入できるという特色を活かし、これを利用した有機薄膜太陽電池デバイスを作製した。
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