本研究では、(1)種々の摂動(非平面化・π拡張化)を加えたフタロシアニン類縁体の合成及び物性解明、(2)高次π空間創製を指向したフタロシアニン多量体の合成及び空間制御による相互作用変化の解明、(3)磁気円偏光二色性(MCD)測定を用いたπ電子系分子の電子状態解明の3つのテーマに沿って、概念的に新しいπ電子系分子の創製を行った。 最終年度の本年は、(1)のPcに施す摂動として構成元素の変換・構成要素の構造変化を中心に行い、吸収特性に関与する分子軌道を効果的に変化させることで、可視近赤外の広い領域における光吸収の波長制御が可能であることを見出し、特に中心元素としてリン、周辺置換基としてカルコゲン元素を導入することで、1000ナノメートル以上に吸収および蛍光を示す新規分子の創製に成功した。また新たな類縁体合成法の開発により、新規なフタロシアニン類縁体の合成にも成功した。(2)の空間的な配列制御では、Pc配列を配位結合で制御するために、外部配位部位を有するPc類縁体の合成を行い、これまでのところ、その前駆体合成に成功している。今後継続して研究を行い、Pcを基盤とした配位高分子へとつなげたい。(3)のMCDスペクトルを用いた新規π電子系の電子構造解明としてはPcだけでなく、領域内共同研究により反芳香族性を有するポルフィリン類縁体や金属内包フラーレン、スマネンなどのナノカーボン類の測定を行い、フロンティア軌道のエネルギーの相関関係など電子構造解明を行った。 以上、本研究において、Pcの新規類縁体の合成に成功し、これまでにない分子ライブラリーを構築したことで、新たな物性として近赤外吸収やキラルなπ共役面の創出、積層構造による電子の蓄積など、新概念の創出に至った。またMCDスペクトル測定がPcのみならず、他のπ共役系分子の電子構造解明に非常に強力なツールとして利用可能であることを示した。
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