研究概要 |
本研究では高次π空間の創発を機能と結びつける以下の二つの研究を行った。 ①新規π化合物の合成とその超分子化による高次π空間の創発 π電子の優れた電子移動特性を活かした研究で大きな成果が出た。特にサドル型のひずみを持つフタロシアニンにおいてメソ位がプロトン化されることによりその酸化還元挙動が変化することを見出した(Angew. Chem., Int. Ed., 2011, 50, 728)。このフタロシアニンのメソ位プロトン化による酸化還元電位の正側シフトは、過酸化水素還元のための電極触媒としての機能を向上させ、過酸化水素燃料電池の性能を大幅に向上させることがわかった。 ②新規化合物の機能化 バナジルポルフィリン錯体をビルディングブロックとして剛直な一次元細孔構造を持つ配位性高分子の合成を行った。この配位性高分子への77 Kでの窒素吸着測定を行ったところ、非常に強く窒素が結合し、室温まで昇温しても窒素分子が外れないことを単結晶X線構造解析の結果から明らかとした。今後、新規π化合物の新たな気体吸蔵材料への応用展開が期待できる (Dalton Trans., 2011, 40, 12826)。また、フラーレン誘導体化合物の単結晶試料を合成し、各結晶方位での電気伝導度を調べたところ、最大で7倍もの高い異方性を示すことがわかった。単結晶X線結晶構造解析の結果と合わせてフラーレン結晶を用いて高い導電性を得るために必要な条件を明らかとすることができた(Chem. Commun., 2011, 47, 11213)。これは、将来、フラーレンを電極とする高効率な太陽電池を作成するために重要な知見である。
|