本研究では、脂質分子の自己集積によって形成される人工細胞膜に、高次π空間を提供する種々の機能素子を三次元的に集積して、ナノデバイスとしての機能発現を目指した。本年度の成果を以下にまとめる。 1. 人工細胞膜へのフラーレンの高次集積化と機能発現 金属内包フラーレンであるLa@C82が、C60やC70等のフラーレンと同様に、人工細胞膜としての脂質二分子膜ベシクルに集積化できることを明らかにし、電子移動に関する反応場特性を評価した。 2. 人工細胞膜へのカーボンナノチューブの高次集積化と機能発現 カーボンナノチューブを抗菌活性をもつ水溶性ポリマーで被覆して人工細胞膜に集積化できることを明らかにした。その結果、細菌の細胞膜を特異的に認識して破壊する抗菌剤としての機能が発現した。また、カーボンナノチューブをテンプレートにして、セラソームなどの脂質二分子膜ベシクルを集積化した人工多細胞組織体の構築についても検討した。 3. 人工細胞膜へのπ集積ドメインの形成と機能発現 脂質二分子膜ベシクルにπ共役系をもつ化学シグナルを集積すると膜ドメインが形成され、膜の出芽とひきつづく膜分裂が認められた。このような膜の動的挙動は、膜を構成する脂質の構造と組成ならびに化学シグナルの分子構造に大きく依存するが、膜構成脂質による化学シグナルの認識が誘起する湾曲したπ集積ドメインの形成に起因しており、外部刺激により人工細胞膜の出芽と分裂を制御できる極めて特異な機能が発現した。
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