本研究では、脂質分子の自己集積によって形成される人工細胞膜に、高次π空間を提供する種々の機能素子を三次元的に集積して、ナノデバイスとしての機能発現を目指した。本年度の成果を以下にまとめる。 1.フラーレンやカーボンナノチューブの高次集積化 フラーレンやカーボンナノチューブを集積化した脂質二分子膜の機能を詳細に検討した。すなわち、フラーレンを集積した脂質二分子膜系の膜物性などが酸化還元挙動に与える影響を明らかにし、また、カーボンナノチューブに種々のπ系分子素子を複合化することで脂質二分子膜との複合化が有効に行えることがわかった。 2.π系分子素子の集積化と機能性ドメイン形成 π系分子素子が脂質二分子膜と相互作用することによって引き起こされる膜ドメイン形成と、引き続く膜形態変化に関して詳細な検討を行った。蛍光スペクトル法からこの相互作用に関する定量的評価を行い、π系分子素子と脂質膜との組み合わせを変化させて、機能性膜ドメイン形成のための支配因子を明らかにした。また、形態変化として認められた膜分裂挙動に関して、その要因について分子モデル計算から評価した。 3.高次π空間をもつ人工細胞膜のナノデバイス機能の評価 π系分子素子を集積化したセラソームなどの脂質二分子膜の動的機能を評価した。特に、オリゴヌクレオチドからなるπ系素子を集積した人工細胞膜系では、DNAシグナルを用いることで生体系に見られるメンブレントラフィック機能やシグナル伝達機能が発現することを見出した。
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