計画研究
生体分子は進化の中で最適化されたπ空間の制御系であり、蛋白質などのナノ反応場が精緻な制御を可能にしている。とりわけ光受容蛋白質は、レチナール、クロロフィル、フラビンといった分子のπ電子系を制御することでユニークな色や反応、機能を産み出しており、ボトムアップ型の高次π空間を創製するにあたってのゴールともみなすことができる。本研究では、蛋白質による特異な波長制御、反応制御、機能制御に着目し、遺伝子改変によって変異を導入した光受容蛋白質に対して、赤外分光法などの分光学的手法を駆使した実験研究によりメカニズム解明を目指している。本年度は以下の成果を得ることができた。視物質ロドプシンの生体π空間制御では、我々が色を識別する視物質の赤外分光解析を世界で初めて実現した。具体的には、サルが赤と緑を識別する蛋白質を培養細胞で発現し、精度の高い低温赤外分光を用いて77Kでのスペクトル変化を捉えることに成功したのである。また、ロドプシンに対する精巧な赤外分光をもとに、熱雑音の原因となる蛋白質の揺らぎを明らかにすることができた。古細菌ロドプシンの生体π空間制御では、これまでに我々のグループで発見した色変化をもたらすプロテオロドプシンのループ領域のアミノ酸変異について、20種類全てのアミノ酸を導入した実験結果から、体積が波長制御に関わることを明らかにした。さらに高速原子間力顕微鏡を用いてプロトンポンプにおける構造変化を捉えることに成功した。フラビン蛋白質の生体π空間制御では、クロプトクロムの赤外分光解析を初めて実現した。これらの成果も含め、10編の原著論文を世に出すことができたが、これらはいずれも生体π空間の特異性に迫る実験研究と位置付けることができる。
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