研究概要 |
本研究では,π電子豊富分子が,高次構造体として組織化することで特異な相互作用が生じることに着目し,組織化構造におけるπ電子豊富分子の機能性に焦点をあてる.とくに自然界に存在するπ電子豊富分子の構造をモチーフとした新規機能性分子の開発を主眼とする.この研究遂行により,直接関連する生命化学分野での機能材料の開発はもちろん,生体模倣構造の有機エレクトロニクス分野での活用をも検討する. 本年度は非天然型π電子豊富分子同士の相互作用を活用することで,新しい遺伝子運搬材料の開発研究を中心に検討した.この検討により,フラーレンを基盤骨格とした新規遺伝子運搬材が,マウスの体内に遺伝子を運搬できることを見いだした。フラーレン遺伝子運搬材は,既存の脂質類似型遺伝子運搬材に比べ安定性が高く,通常では運搬困難な臓器への遺伝子運搬が可能であることを見いだした。とくに肝臓・脾臓への遺伝子運搬が特筆に値する.具体的には,我々が独自に開発したテトラアミノフラーレンとプラスミドDNAとの錯形成により遺伝子運搬体を調製し,これを静脈注射によりマウスに投与した.運搬遺伝子をGFPとすることで体内での遺伝子発現分布を確認したところ,肝臓と脾臓への遺伝子運搬が確認された.既存の遺伝子運搬脂質分子を用いると大半が肺での発現のみであったのと対照的な結果である.さらに運搬遺伝子をインシュリン遺伝子へ変えたところ,体内血糖値の低下が確認できた.遺伝子治療での活用を期待させる結果である.
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